[リレーコラム] VOL.055
「マロロしていいんだよ」
うーたん保育園 主任
齋藤 由希(さいとう ゆき)
11年前、私は大洋州にある小さな島サモアにいました。学生時代からずっと夢だった青年海外協力隊員として派遣された国でした。
当時の私は隊員あるあるなのですが、「目的を達成して帰国するんだ!」と熱い思いで出国し、サモアに着いてすぐに「アレ?!なんか違う…?」と感じました。
サモアでは誰も急ぎません。♪風が吹いたら遅刻して~雨が降ったらお休みで~♪という歌のリアル版!スタッフすら同じ感覚です。そして、子ども達が登園すると母親たちは自分たちで持ってきたゴザを木の下や床上に敷き始めます。初めて見たときはあまりに驚いて「彼女たちはあそこで何をしているの?」と聞くと「マロロだよ」と笑って教えてくれました。マロロとは休憩、の意味。登園してお昼すぎまでマロロをして、お喋りしながら子どもたちを待つ。ゆるやかな時間が常に流れています。
でも、私は日本人。マロロがなかなか上手にできず、授業の合間も掃除をしたり、作り物をしたり、レポートを書いたり…仕事中は何かをセカセカしていた気がします。そんな姿に興味を持ってくれたサモア人もいて、今でもsister!と言い合える関係の友人もできましたが、サモアに援助に行ったというより、日本に足りないものを否応なしに見せつけられたと今でも思っています。
日本の子ども達は衛生的で、豊かなものに囲まれた暮らしができていると思いますが、保育園の0歳の赤ちゃんでさえマロロが足りないな、とふとサモアを思い出してしまう時があります。赤ちゃんですら朝から晩まで集団の中にいるのですから、お父さんお母さんはもっともっと忙しい。我が子が病気になっても仕事をせざるを得ない事もあります。真面目な国民性は日本人の良い部分でもあるけれど、保護者さんも子ども達もスタッフも、自分自身にも「マロロしていいんだよ」と言える心のゆとりは忘れないようにしたいです。